こんばんは、分散型ライフのエンジです。
投資先として債券の安全資産や株式の危険資産があり、リスクリターンを考慮してポートフォリオを組むと思います。しかしリスクは必ず付き物となりますので、リスクを事前に評価する必要があります。
リスクの尺度は何を参照すれば良いのでしょうか。
機関投資家は個別銘柄のβ値を用いてリスクの評価を行い、数十~数百種類の銘柄を組み合わせて運用しています。
もちろん、β値なるものは個人投資家でも参照することが出来ますので、例えば配当金によるインカムゲインを狙う方でしたら、リスクが低くて高配当の銘柄への複数投資を目論むと思います。
また、複数銘柄でポートフォリオを組むとなぜリスクを低減出来るのか。なんとなくイメージは付きますが、理論的に追ってみたいと思います。
β値と分散投資を意識して、投資リスクを抑えて安定的にリターンが得られるようにしたいですね。それでは詳細についてお話していきます。
β値は回帰モデルから求められる
いきなり回帰モデルという言葉が出てきました。
回帰モデルを使用した分析方法を回帰分析と言います。
β値を実際に扱う時には、証券会社のページに個別銘柄の値が出ていますので計算する機会はほとんどありませんが、β値の背景を知っておくと今後の理解が深まると思います!
順を追って説明していきますので、数学アレルギーの方も少しお付き合い願います。
回帰モデル
回帰モデルとはある変数の動きを他の変数の動きに結び付けて説明する時に用います。
回帰モデルを考える理由は、個別銘柄が市況によってどのような影響を受けているのか調べるためです。相場は常に安定しているわけではなくて、バブル崩壊やリーマンショック等の恐慌によって日経平均やダウ平均株価の暴落を引き起こした事例がありますね。
日経平均やダウといった株価指数をベンチマークとして、個別銘柄がどの程度影響を受けるのか検討することが出来ます。
例として、株価指数と証券Aの回帰分析を行ってみましょう。
下図にグラフを示しています。株価指数のリターンを縦軸にして証券Aのリターンを横軸にしています。
そして、過去のデータを散布図にプロットします。下図で言うと♦マークが該当します。
この♦マークの散らばりから回帰モデルを使用して、線形近似による回帰直線を求めます。この直線の傾きから所望するβ値を算出します。
なお、回帰モデルは下記の式で表せます。
y= α + βx + u
αとβを係数パラメータといいます。uは変数xに無関係な誤差として扱います。
では、♦マークから線形近似によって回帰直線を求めてみます。
計算方法は最小二乗法によって算出します。
観測値と回帰モデルとの差、つまり残差を求め、残差の二乗和を取ります。
(なぜ二乗するのかというと、直角三角形とピタゴラスの定理を思い浮かべてみて下さい。斜辺を求める時は二乗して求めますよね。その所以です。)
そして二乗和は先程の回帰モデルで示したαとβによる2変数関数となります。なるべく回帰モデルと観測値の差(残差)を無くなるようにして正確な回帰直線を求めたいですよね。このため、偏微分を行って、残差が最小となるような極小値の条件を満たすαとβを求めます。
(高校時代の数学で微分を思い出してみて下さい。微分で極小値を算出したりしませんでしたか?それを利用してβ値を算出します。なお、2変数関数となりますので、偏微分を用います。偏微分とは片方の変数を一定と見なして微分します。つまり、αが一定と見なしてβを微分、βが一定と見なしてαを微分という2つの微分演算を行ことです)
上記の計算方法に基づき、β値を求めてみましょう。
実はExcelの近似曲線機能で簡単に算出することが出来ます。
下図に答えがありますが、回帰直線の傾きβ=0.6145ということがわかります。
この傾きβは何を意味しているのでしょうか。
β ≒ 0.61ということは株価指数が1%上昇した場合は、証券Aが0.61%上昇するということです。つまり、株価指数の変動に対して証券Aは0.61倍変動します。
尚、この回帰直線の傾きβによって以下のように考えることが出来ます。
・傾きが1以上、つまりβ>1の場合は、株価指数よりも証券Aの変動が大きい。
・傾きが1、つまりβ=1の場合は、証券Aは株価指数と同様の変動となる。
・傾きが0、つまりβ=0の場合は、証券Aは株価指数の変動の影響を受けない。
・傾きがマイナス、つまりβ<0の場合は、証券Aは株価指数と反対の動きとなる。
β値を求めることで、市場の株価指数に対する変動リスクを考慮することが出来ます。
一般的には銘柄iの収益率をriとして下記のような回帰モデルを使用します。
ri = αi + βi rm + ui
市場の平均的な収益率をrmとしています。
これは市場の平均的な変動と個別銘柄を結び付けて検討するマーケットモデルという考えに基づいています。
マーケットモデルの詳細については割愛しますが、マーケットモデルを適用すると複数の銘柄で構成されたポートフォリオを検討する際に、計算量を大幅に削減することが出来ます。具体的には銘柄同士の共分散、相関係数、誤差項の計算を省略することが可能となります。
分散投資によるリスク低減
上記の回帰モデルを使って、分散投資が投資のリスク低減につながる理由を考えてみましょう。(計算上は前述のマーケットモデルに従うと仮定します)
複数の銘柄で構成されたポートフォリオの分散を求めてみます。
※分散の意味合いについてはこちらの記事を参照下さい。
n種類の証券で構成された銘柄iの回帰モデルは以下となります。
ri = αi + βi rm + ui (i = 1, ・・・・, n)
銘柄が1~n種類ありますので、分散を求める過程で全ての銘柄の回帰モデルを足していきます。詳細な計算は専門書に任せるとして、ポートフォリオのリスクを示す分散σp2を求めてみます。
上記のようになります。このようにしてポートフォリオのリスクを表すことが出来ます。
ここで、右辺の第二項に注目して下さい。
nが大きくなればなるほど、第二項が小さくなることがわかります。従って、多くの銘柄でポートフォリオを組めば、ポートフォリオの分散σp2が小さくなることがわかります。
分散投資によって多くの銘柄で構成されたポートフォリオは投資リスクを抑える効果があるということがわかりますね。
最終的に残るリスクはβ値
先程のポートフォリオの分散において、極論を言えば銘柄を無限大に構成すれば右辺の第二項が消えますので、ポートフォリオの分散は下記となります。
市況に関するリスクは、ポートフォリオで最適化を図っても取り除くことが出来ないということを意味しています。これは金融工学で非システマティック・リスクと呼びます。
つまり、最終的に残るリスクはβ値となることがわかります。
このため、個人投資家においてもβ値は注視して投資を行う必要があることがわかります。
まとめ
β値と分散投資について回帰モデルによる分析から導出方法まで説明しました。
投資のリスクを抑えるためには、β値を参照して分散投資を行うことが大切だということが数学的に読み取れたかと思います。
ぜひ今後の投資に役立てればと思います。
以上、「投資リスクを抑えるコツである「β値」と「分散投資」とは?」でした。